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木蓮の記憶

 私設図書館ビブリオAAの近くに大きな白木蓮の木があります。膨らんだ蕾も愛らしいものでしたが、今は見事に花開き、純白の花弁を空に掲げています。

 木蓮を見かけると、同居していた父方の祖母を思い浮かべます。実家の庭に植えられていた小ぶりの紫木蓮は、茶の間からよく見えました。つぼみが膨らみ始めると、祖母が開花を待ち望んでいたことを思い出します。

 祖母は10年ほど前に亡くなりました。100歳での大往生。何事にも興味関心が強く、新聞をよく読み、国会中継も見逃さない人でした。和裁や編み物が得意で、手先をいつも動かしていました。今でも使っている、実家の墓参りに持っていく小さなお米袋は、丁寧に作られた祖母のお手製です。

 新聞、週刊誌を主に読んでいましたが、祖母が面白いと読んでいた小説は、平岩弓枝の「御宿かわせみ」シリーズでした。友人や図書館から私が借りてきては、祖母と共有し楽しみました。大きなルーペを用いて文庫本を覗き込んでいた祖母の姿を思い出します。何事にも興味関心を持ち、手先を小まめに動かすことが長生きの秘訣でしょうか。長く患うこともない最期でした。今年も、木蓮が咲く春となりましたよ。