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春や春

 『春や春』 森谷明子著 光文社刊 ISBN 9784334910259

  

 東京にある女子高で生まれた俳句同好会が、松山で行われる俳句甲子園を目指します。
 

 俳句同好会のメンバーは6人。しかし、俳句好きばかりではありません。俳句の他にも、音楽が好き、書道が好き、弁論が好き、マネジメントが好きと、実に個性豊かな面々が集まります。個々の力が合わさり生まれる作品には、皆で作り上げる作業の魅力を感じました。

 一人ではなく、皆で行う。同じことは俳句の鑑賞にも言えると思いました。俳句甲子園では、盛んに質問や批評を行う様子を目にします。そこから激しい印象も受けますが、実は一つの作品の魅力をそれぞれの観点から引き出しているのです。「私たちは俳句を否定するために今までやってきたんじゃない。批評は否定ではないのだ」とは、主人公たちの言葉。そしてある教師は、和歌の鑑賞方法としては一般的な「歌合せ」に通じると理解します。

 考えてみれば、ビブリオバトルも類似点がありますね。「バトル」という言葉が争う印象を持たせますが、発表後の質問タイムは、その本の魅力を存分に引き出す温かい役割を持っています。ビブリオバトルも、広がりや深まりを皆で楽しむ書評会なのです。ちなみに、著者は図書館勤務経験があり、司書が日常の謎を解くミステリーも出版しています。今回の『春や春』でももちろん、司書が主人公たちを支えています。

 

 「春や春 春爛漫の桜かな」。タイトルとなる「春や春」は、実は俳句ではありません。しかし、主人公たちを結びつける重要な役割を果たしています。

 今年で24回目となる俳句甲子園大会のエントリー受付も始まりました。新型コロナウィルス感染症拡大の影響を考慮し、地方大会(予選)は投句審査で実施されます。関心のある方はこちらもぜひご覧下さい。https://haikukoushien.com/