まちの小さなブックスペースの一つのかたち~本棚は囁く
郵便局の待合スペースに設けられた「ポスト文庫」。
このようなブックスペースを目にすると、足を止めないわけにはいかない性分である。
蔵書量は少なく、ジャンルも小説がほとんどだ。
誰が寄贈したものだろうか?郵便局員の有志?
背ラベルが貼り付けられた本があるが、これは除籍されたものなのか?
奥の裂には、目視可能な範囲で新田次郎全集12冊が並んでいる。前列にも新田次郎の本が3冊ある。作家にこだわってコレクションしたであろうに、いかなる理由で手放したのだろうか?
ほんの小さな文庫だが、次々と興味はわいてくる。「本棚」という集合体は、ある種の世界を表現している。明確な意図を持って集まってきた本ではないかもしれないが、集合体として何らかの言葉を発しているように思えてならない。
そんな「本棚」の囁き声を聴くためには、やはり足をとめてじっくり棚を眺めておきたい。
さて、この「ポスト文庫」、小振りながら貸出を行なっている。そのスタイルが面白い。
「都合のいい時にお返し下さい」
もちろん、貸出カードもなければ、貸出手続きもない。
利用者の性善説を前提にしたスタイルなのだ。
返却される保証はどこにもない。
例え返却されなかったとしても差し支えないような本を寄せ集めただけに過ぎないのかも知れないが、それでもせっかく集めたものが歯抜けになってしまうことは、僕なんかは全く許容できない。この寛大な姿勢には、まったく頭が下がる。
しかし考えてみると、滅失する恐れがある一方で、このシステムの価値をくみ取った人から新たな本が持ち込まれる可能性も秘めている。
無管理だからこその、ある種の秩序が生まれるのかもしれない。
小さなブックスペースは、色んなことを考えさせてもくれた。
このような「本棚」が身近な色んな場所に自然に置かれるようになってもらいたい。そんな淡い期待を寄せている。
(こ)
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