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各駅停車、過去の自分行き

 先日ふと思い立ち、JR伊予市駅よりワンマン列車に乗車した。電車の到着地は八幡浜駅、私の目的地は伊予市駅から4つ目の下灘駅。海をつたう「愛ある伊予灘線」、わずか25分の各駅停車の旅である。
 普段はもっぱら車で移動する。JRの利用は最寄り駅から松山に出ることが多く、逆方向になる「八幡浜行き」に乗る機会はめったにない。伊予市駅を発ち、向井原、高野川、伊予上灘、そして下灘駅に着く。高架から車道を見下ろし、宮領八幡神社の際を走る。三秋の大池を過ぎると双海の海が広がり、島がいつもより近く見える。予想したとおり、移り変わる景色は新鮮で目新しく、そしてぼんやりと懐かしい。
 私は八幡浜の出身で、小学6年生の頃はJRで松山に出ることが冒険だった。お金はなく当然各駅停車に乗る。今でも付き合いのある親友と二人、朝の6時台に小さな無人駅から乗り込んだ。エネルギーが溢れていたのか何故か早朝の列車と決まっていて、向い合わせで明け方の海を見ながら2時間揺られていた。
 当時の下灘駅の具体的な印象は覚えていないが、伊予市駅で途中下車したことははっきりと覚えている。駅を出て国鉄通りを海に向かった。積み上げられた材木を横目で見ながら、伊予港で水面近く泳ぐ魚を真下に眺めながら、「伊予市は何もないところだね」と、何をするでもなく時間を潰した。今だから笑える小学生の勘違いだが、当時はまさか20数年後、その伊予市に永住しようとは思ってもいない。「何もない」と感じた港で、今では夕日を眺めたり、対岸の島影を教えてもらったりしている。人も自然も豊かな町での暮らしも12年が経つ。